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「百貨店の存続危機!都市と地方の格差が拡大する現実」


変化と対応が求められる百貨店の現在地
~都市圏と地方圏で差異が拡大~


百貨店は、都市圏では駅前、地方圏ではその街の一等地にありますが、2010年頃から地方圏を中心に閉店が続き、 15年頃には一旦落ち着いた様相をみせましたが、コロナ禍前の2018年以降閉店が増加傾向となり、コロナ禍後も加速しています。 1月末には「東急百貨店渋谷本店」、「高島屋立川店」、北海道帯広の「藤丸百貨店」が閉店しました。

百貨店の閉店は、地方圏の経済衰退の象徴として注目が集まり、県庁所在地から百貨店が無くなったケースも山形県、 徳島県の2県出ています。
今回は、閉店を余儀なくされている百貨店の営業推移及び閉店による影響と役割について報告します。

百貨店の売上高推移

百貨店は、長年小売業の王者として君臨していましたが、この30年間で状況は大きく変わり、 売上は、1991年の「9兆7130億円」をピークに、 1990年代前半のバブル景気崩壊の影響を受けて右肩下がりとなりましたが、 1997年には「9兆1773億円」と持ち直しました。
しかし、2000年の老舗百貨店の経営破綻とその後の大手百貨店同士の合併などの業界再編が進み、 2000年代後半のリーマンショックや世界金融危機の影響で、 2009年売上が「6兆5841億円」と、大きく落ち込みました。


図表:日本百貨店協会リリースより作成


2011年からは、「6兆1千億~2千億円台」で下げ止まり感がありましたが、 コロナ禍前の2019年は、「5兆7547億円」となっていました。
そして、コロナ禍後の2020年は、「4兆2204億円」と大きく落ち込み、 百貨店各社は最終赤字に転落しました。以後2021年は、「4兆4183億円」、 直近の2022年は、「4兆9812億円」(コロナ禍前の2019年対比86.6%)に 戻りましたが、30年前の約半分となっています。


百貨店店舗数の推移

店舗数は、1999年に「311店舗」あった店舗は、 2008年には「280店舗」と減り、 コロナ禍前の2019年には「208店舗」と大きく減りました。 そして、2020年には200店舗を割り、直近の2022年は「185店」となっています。
この23年間で、126店舗が閉店に追い込まれています。

 

図表:日本百貨店協会リリースより作成(各年:12月末現在)

<都市圏と地方圏で、その減少幅が拡大>

2012年と2022年での10年間対比で見てみると、
大都市圏では、 店→  店 
地方圏では、162店→113店 ▲49店 70% となっています。
地方百貨店は、この10年間で約3割にあたる49店舗が閉店しており、 この差は、富裕層と外国人観光客に支えられた都市圏の百貨店と、 それらの好影響を得られなかった地方圏の百貨店との間で格差が拡大したと思われますが、 百貨店全体では、コロナ禍でのインバウンド観光客の消失と外出自粛、在宅勤務の増加により、 大都市圏、地方圏いずれの百貨店も売上を大幅に減少させる事態となり、百貨店の閉店が増加したと考えられます。

その結果、山形県と徳島県は「百貨店ゼロ県」に。 百貨店が1店舗しかない「ゼロ候補県」は、8県から17県へと倍増しています。※
実に全国47都道府県のうち約4割の19県が、「ゼロまたはゼロ候補」の県となっている状況なのです。
※(福島・茨城・新潟・山梨・岐阜・富山・福井・滋賀・和歌山・島根・香川・高知・佐賀・熊本・宮崎・鹿児島・沖縄の17県、うち、8県は大手系列百貨店、9県は地場資本百貨店)


地方百貨店閉店の複合要因


この15年ほどで、特に地方百貨店の閉店が増加した原因は、 一つではなく多くの要因が重なっています。


(1)地方都市における商業中心地の変化
日本の地方都市の多くは、江戸時代の城下町を避けて鉄道を施設したので、駅周辺に目立った商業施設はなく、 中心部の繁華街に商店街や飲食街が形成された中で地場資本の百貨店が集客装置の役目を果たすという 構造がつくられました。そして郊外では住宅開発が進み、 「駅前・中心市街地・郊外という3エリアの都市構造」が生まれました。


(2)郊外型SC出店に伴い中心市街地の集客力の低下
1990年代に入り、大型店舗の出店を規制していた「大店法の改正、廃止」によって、 従来の中心市街地より周辺地域での大型ショッピングセンター(以下:SC)建設が増え、 郊外型SCが中心市街地の集客力を奪う結果となりました。


(3)建物の老朽化と耐震問題
2013年に「大型建築物の耐震基準」が見直され、 「1981年以前の旧耐震基準で建てられている大型建築物」に対しても その基準が義務付けられました。
地方百貨店の多くは見直し前の建築物が多く、改修工事に多額の費用を要したことで、 経営継続を諦め閉店するケースも多くなったのではないでしょうか?


(4)百貨店の魅力が失われ、高コスト構造が経営を圧迫
百貨店の百貨を構成していた商品のうち、1980年代から、 家具・家電・紳士服・スポーツなどは「カテゴリーキラー」と呼ばれる小売業が登場します。
お客様は、軽衣料の「ユニクロ」「しまむら」などの カテゴリーキラー店舗を「この品質でこの価格ならば」と、 価格と価値のバランスを評価しました。
また、百貨店を支えていた大手アパレルメーカーが、 1990年代に入り「SPA(製造小売業)」という概念を取り入れ、 駅前や郊外型の大型SCへの出店に活路を見出したことにより、百貨の魅力が更に失われました。
さらに、人件費に加えて取引条件も高コスト構造となり経営を圧迫するようになりました。


地域に生き残る百貨店を目指して


百貨店は、コロナ禍以前から売上低迷により厳しい状況となっていましたが、 コロナ禍により、テレワークやEC、SNSの利用が高まる「新しい生活様式」が 定着していく中で、環境変化を踏まえた新たな施策が求められています。


キーワードは、「リアルの追求」,「SDGs・サスティナブル」, 「地域共生」です。


その具体的視点は

  • 百貨店に関連するサプライチェーンの中で働く従業員の勤務環境改善、 アパレルや食品のロス(返品・廃棄)の抑制といった 持続可能性に関する社会的な要請の高まり
  • 百貨店経営を支えてきた外商部門の主要顧客である富裕層中心の顧客管理から、 日々来店いただくお客様に対してのLINEやアプリでの情報発信などの デジタル活用によって送客する動きへの移行
  • コロナ禍を契機としたお客様の購買行動の変化に対応する 「オムニチャネル化」と「リアルな場としての体験・来館価値向上」の両立
  • 「地域との共生」の重要性:地元行政や商店街との取組み強化、産学との連携等の施策

さいごに ―地方百貨店の果たすべき役割と方向性―

<地方百貨店の役割>
地方百貨店の撤退(ここでは撤退という表現を使用)による影響と百貨店の役割について、 アンケートとヒアリングを実施した事例がありましたので、さいごにご紹介します。

新潟県新潟市で2010年に66年の歴史に幕を閉じた「新潟大和百貨店」 (以下:大和)撤退後に、新潟市と商工会議所がヒアリングを行い、撤退による市への影響を把握し、 「大和」が持っていた役割を分析しています。

  • 「撤退時に悲しまなかった市民はほぼいない」、「周辺商店街も衰退した」というコメントが得られ、 大和の撤退が中心市街地の衰退に大きく影響を及ぼした。
  • 直前の様子として、「サンダル履きで行ける百貨店」「食料品の充実」といったコメントからも、 大和が市民の生活に密着していた。
  • 長年にわたり、組合費を多く負担するなど「商店街に協力」しており、 1978年に開業した新潟地下街(西堀ローサ)への出資など、 大和がまちづくりの貢献に繋がる事業を行っていた。
  • ピーク時(バブル崩壊以前)のイメージとして、「大和百貨店」は、 格が高く、まちの中心的な店舗で、ハレの場として機能し、 中心商店街の集客、イメージ形成に大きな影響を与えていた。

このように、市内中心部において、百貨店は、「商店街との協力」、 「まちづくりへの貢献」、「街の中心」、「ハレの場」、「格の高さ」の5項目の役割を果たし、 存在感を示していたのです。

以上の分析は、「地方百貨店の5つの役割は、中心市街地活性化において、 どれも重要な役割であると考えられ、百貨店がなくなると複数の役割が市街地からなくなってしまうことがわかった。」 と結ばれています。

<百貨店の方向性>
少子高齢化が進む中、若い世代は地方都市の百貨店や商業施設では満足せず、 交通網の発達により短時間で移動できる乗り物を利用して、大都市圏に出掛けます。 大都市の求心力が高いほど首都圏郊外や地方中小都市の商業施設はその魅力を失っていきます。

百貨店は、各県単位の商圏内で営業していましたが、いずれ、関東圏では東京に、九州では福岡に、 北海道では札幌に集中するなど、従来型の百貨店は、「1県もしくは1エリアに、1百貨店しか残らない」 という状況になるかも知れません。

そこで百貨店は、それぞれの地域でのお客様ニーズを考えて、百貨店の概念を捨てて特化するなど、 根本から見直す時代に入るのではないでしょうか?
どのターゲットに合わせるのかを見極め、アパレルにこだわらず、地域の人に寄り添い、 今までの様なフロア切りや用途切りのコンセプトではない「新たな百貨店の提案」が求められます。

そんな新たな百貨店を考えるにあたって、弊社主催のマーケット戦略セミナーで、 (株)TOMの柳田社長は、百貨店の「貨」の字を変えて、
「百店」:ハナヤカなこと、 「百店」:道筋の追求、 「百店」:テーマ
の視点で考えてみる事を提案しています。

現在、百貨店はSC・定借型への転換事例が多くなっていますが、
次回は、事業転換の事例と経緯について報告します。






馬場 英喜
馬場 英喜
ワンスアラウンド株式会社 顧問

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