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SCにおける女性目線(視点)の重要性



ショッピングセンター(SC)の未来を考える ―第12回―



前回は、最近耳にすることが増えたSDGs(持続可能な開発目標)について報告しましたが、 そこには達成すべき17の目標があり、サスティナブルな社会の実現に向けては、 それぞれの目標が相互に関連し合っていることがわかりました。

今回は、その中で「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」の視点から女性の活躍に焦点を合わせて、 私が体験した事例を取り上げながら、SCにおいてどんな課題があるのか?と、 その取組み目標につきまして報告したいと思います。


国内の上場企業における女性役員比率は?


東洋経済新報社「役員四季報」調査によると、
昨年(2021年)と5年前(2016年)の7月末の比較は、(下記の表の通り)
  「全業種で、3.3%→7.2%」へと増加し、
 SCディベロッパーの企業母体である
  「小売業:5.1%→8.9%」  「不動産業:3.5%→6.1%」
  「陸運業:2.5%→7.9%」   へと、それぞれ伸ばしていますが、
その割合は、諸外国と比較しても、依然としてまだ低い水準となっています。


国内主要DEVにおける女性役員比率は?


次に、鉄道系(JR・私鉄)22社、不動産系5社、小売業系7社、単館5社、 合わせて39社の取締役・監査役と執行役員総数を調べてみました。

役員総数は475人、その内女性役員は33人、女性比率は6.9%でした。
取締役の役職では、
・社長:JR3人、副社長:小売業1人、
 常務:JR2人、小売業1人となっています。
・女性比率が高い業種は小売業であり、中でも丸井は25%と特出しています。



DEVの経営層や管理職にも女性の進出が求められていますが、まだまだ女性役員は少ない状況です。
そんな中、SC運営において女性にスポットをあてた事例として、DEV3社の事例をご紹介します。

事例(1) 女性の活躍の場をいち早く作る 東神開発株式会社


東神開発OBの大甕氏にお聞きしたところ、


1969年開業した玉川高島屋S・Cは、高島屋が母体ですので、 開業後からテナント側との窓口や営業の前面には、意識して女性を起用していましたが、
1981年に、マーケティングに興味を持つ「4大卒女性の採用(6名)」を決断し、 社内の反対を押し切りながら実行しました。

背景は、沿線のたまプラーザ駅前に東急電鉄が「郊外型のSCの開発」を発表していたのと、 玉川高島屋S・Cが1989年に迎える開業20周年に備えるためでした。

彼女たちは、社会状況の変化を踏まえた顧客動向等を分析し、 SCの方向性をまとめたレポートを報告しましたが、 それに沿って作成された見直し企画から新規テナント導入へと繋がり、 結果として1982年秋開業の「たまプラーザ東急SC」の影響はほとんど無かったそうです。

また、地域マーケティングの視点を重視しながら、販売促進計画を女性視点で企画・立案し、 地域に密着した販売促進を現在も推進しています。

この女性の登用は、その後のDEV各社の採用方針に大きな影響を与えたと思います。

事例(2) オフィスでもお客様視点のおもてなし ルミネ横浜


1980年開業の横浜ルミネですが、初代社長の速水氏は、男性社会だった国鉄時代において、 お客様視点で諸施策に取り組みましたが、原点にあったのは、 ルミネのお客様の殆どが女性であるという事ではなかったでしょうか?

一番印象に残っているのが、ルミネオフィスを往訪すると、入口の受付で常駐している女性が席を立っての挨拶とともに、オープンなオフィス内のスタッフ全員が起立されて、皆さんから「いらっしゃいませ」との挨拶を受けたことです。

その後、1987年にJR東日本が発足し、ルミネも合併しましたが、その精神と対応は、今も全ルミネに引き継がれています。

ルミネ横浜では、他にも女性目線での取組みがありました。
当時、年1回の定時総会は懇親会を兼ねて1泊2日で実施のSCが多かったのですが、 ルミネ横浜では、元町・伊勢崎町をはじめとする地元のテナントが多かったからだと思いますが、 奥様同伴での総会でした。
速水社長にとっては、懇親会等での奥様方とのコミュニケーションは、 新鮮で貴重な情報収集の場だったのではないでしょうか?
2日目はゴルフ会と観光に分かれましたが、ルミネの女性社員は「おもてなし」に奮闘されていました。
事前の下調べなどの準備から、当日の手配、おもてなしは大変だったが、 女性としての心得やマナーを学ばせて貰ったと、後日お聞きしました。

事例(3) 女性視点での気遣いと思いやり たまプラーザ商店会


東急電鉄が開発した「たまプラーザ東急SC (現在:たまプラーザテラス)」の商店会での体験です。

1982年秋の開業ですが、2000年頃の商店会の2代目会長は、 有隣堂書店の篠崎孝子社長が就いていました。当時、商店会の女性会長は珍しい人事だったと思います。

商店会事業では、諸々のテナント表彰がありましたが、鮮烈な印象を受けた事例があります。
表彰状は、同賞の表彰の場合、一般的には「以下同文」で同じ言葉が綴られていますが、 たまプラーザSCにおいては、なんと表彰者の表彰状の本文の文章がすべて違っていました。

そこには、どのような取り組みをしてどんな成果に繋がったことへの表彰か?が克明に記されていました。
事務局は大変だったと思いますが、受賞者は受賞時は勿論、後で読み返した時も感激されたのではないでしょうか?

一歩先を見据えた女性目線のこうした気遣いが満載だったと思います。

因みに、弊社も代表の拘りで、1年間の表彰では、 1件1件の表彰状に取り組み内容と成果を記して称えています。

今回、見えてきたこと。学んだこと。


SCは、利用されるお客様、そして現場で働く人の約75%が女性という環境ですが、 冒頭に報告したように、SC運営における経営層の女性役員の比率は、まだまだ低い状況であり、 併せて、管理職においても男性が大半を占めており、男性中心のSC運営をしてきましたが、 今後進化するためには女性の力が必要だと改めて感じています。


「マーケティング」「リーシング」分野で女性が活躍


私は、テナント側の店舗開発として1975年から2000年にかけて、 DEVとの出店交渉にあたりました。当時のSCは右肩上がりで成長していましたが、 出店交渉時の中心者は、双方が男性だったと思います。

しかし、消費者の価値感やライフスタイルの変化に対応するには、テナント側も区画の確保だけではなく、 自社の理念、ブランドのターゲットやマーチャンダイジングを説明しながら、 DEVの理解と共感を得ることが必要となりました。

また、DEV側も、SC運営や業態開発に際して、現場(お客様)の声を キャッチアップして理解するためには、きめ細かな女性の視点が鍵となり、 リーシング担当窓口として女性の起用が求められました。

現在では、女性の担当者が前面に出て、テナントの開発担当者と向かい合いながら出店交渉するように変わって来ましたが、
その転換点は、アパレルの品揃え型テナント全盛時代が終わり、 ビームス、ユナイテッドアローズ、ベイクルーズ等のセレクト系ブランドのSCへの出店が始まった1990年後半。 まさに「男性視点」から「女性視点」への転換でした。

今後SCが問われる課題に対し、取り組むべき対応は?


少子高齢化に伴う人口減少が深刻化し、多様な視点によるイノベーションが求められる中、 SCの持続的な成長のためには、異なる意見を持つ者同士の議論も必要となります。
顕在化していない課題を抽出し、解決策を提案・実行するには、以下の3つの視点から、 聞き上手でコミュニケーション能力に長けた女性を、 責任ある立場(地位)で登用した組織体制と環境作りが不可決ではないでしょうか?

■観察眼を活かしたコミュニケーション能力
社内外の対応に必要なコミュニケーションは女性が得意とするところであり、 併せて部下の現状掌握やメンタル面のケアが出来る観察眼にも優れています。

■部下が相談しやすく、状況把握が出来る
男性上司とは違い、人間関係やプライベートの悩みも話しやすさがあり、部下の状況が把握しやすくなります。

■多様性を持った組織が構築出来る
男性中心ではなく、男女の異なる意見を持つ者同士が議論してこそ、イノベーションが生まれ、 その先の企業価値向上に結びついていきます。

何故、女性の活躍の場が少ないのか?を考えてみると、

現状は、子育てママや介護中の女性にとって働きにくい環境が、活躍を阻害している側面があるのではないでしょうか?

女性管理職を増やし、女性が働きやすくするためには、

1.産休、育休制度はもちろん、コロナ禍で定着しつつあるテレワークや時短勤務などの制度充実を行い、 育児・介護と仕事が両立しやすい環境を整えること。

2.DEVの会社組織は、企画・リーシング・営業・総務管理・宣伝等の機能を持って運営されていますが、 企画、宣伝、リーシング分野に女性担当者が増えたように、更に女性が働ける適職を設けること。

これらの実現のためには、制度の充実、組織の見直しに加え、企業の意識・風土(特に男性中心の風土)を変えていくことが求められます。

そして、SC運営において、消費者(お客様)とキメ細かな接点を持っている女性視点を取り入れることが、 企業価値向上に結びつくのではないでしょうか?

馬場 英喜
馬場 英喜
ワンスアラウンド株式会社 顧問

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